近年、少子高齢化に伴う経営者の親族内承継が減少傾向にあります。
最近では、後継者不足を解消するために、親族外承継による事業継続を進める企業が増加しています。
これから事業承継を検討している経営者は、実際の事業承継の割合と具体的な背景を知る必要があります。
そこで本記事では、親族内承継の割合について解説します。
また、親族内承継で知っておきたいメリットとデメリットを踏まえて、事業承継を検討しましょう。
【この記事でわかること】
- 親族内承継の割合は事業承継のなかでも最も多い
- 親族内承継が進まない会社は事業承継に消極的である
- 親族内承継は周囲への影響を最小限に抑えながら事業継続ができる
- 親族内承継以外に従業員承継・上場による承継・廃業の選択肢がある
- 生前贈与・株式譲渡・遺言で税金の負担軽減とトラブルを回避する
- 親族内承継を成功させるには後継者への負担に配慮する
- 事業承継を実現させるには親族以外の承継も選択肢に入れる
実際に親族内承継の割合は、どのくらいあるのでしょうか。
親族内承継のメリット、デメリットと合わせて解説します。
2021年度の親族内承継の割合は38.3%に達する
親族内承継の割合は、2021年度帝国データバンクの後継者不在率の動向調査によると、38.3%に達しています。
しかし、2017年以降は、親族内承継の割合がゆるやかに減少しています。
次に親族以外の役員や従業員による内部昇格が、31.7%を占めています。
近年、事業承継が上手くいかない原因として、新型コロナウイルスの影響が挙げられます。
後継者の育成や計画を進めていたのにもかかわらず、業績の急変や人材不足により、事業承継が間に合わない企業も少なくはありません。
また、後継者を見つけたとしても経営手腕や資質を満たしていないため、円滑な事業承継ができないといった事情もあります。
特に業績や後継者不足などの課題が多い中小企業では、廃業を選択肢に入れる経営者も多いでしょう。
参照:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)
親族外承継の割合は全体の17.4%を占める
親族内承継の割合が38.3%に対して、親族外承継は2021年度で17.4%を占めています。
2017年度の15.9%からゆるやかに増加しているため、親族外承継を選ぶ経営者が増えているようです。
近年では、企業の合併と買収を行う「M&A」などの第三者承継を選択する経営者が増えています。
親族に縛られずに外部の人間に経営を任せる動きが見られるようになり、第三者を代表として迎える企業の割合が2021年度で7.6%を占めています。
第三者を迎え入れる割合は、2017年度の7.4%から横ばいの傾向です。
参照:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)
親族内承継が進まない会社は経営課題を抱えている
近年の少子高齢化による後継者不足に伴い、従来の親族内承継も難しくなっています。
多様な働き方が当たり前となった現代では、親の会社を承継するよりも自由に職業を選ぶ子どもが増えています。
親族に会社を任せたくても本人の意志がなければ、後継者として会社を任せられないでしょう。
また、業務のIT化が広まっているなかで、新たな領域への対応が追いつかない中小企業も少なくはありません。
さらに経営状況が悪化していると、事業承継に対して消極的になる人がほとんどです。
経営の先行きに不安を感じている経営者は、廃業を選択肢に入れているでしょう。
後継者の選定から事業承継まで5〜10年はかかるため、本業が多忙で準備を後回しにすると先代の経営者が亡くなる可能性があります。
準備不足で事業の継続が困難になると、廃業を選ばざるを得なくなるでしょう。
親族内承継は周りへの影響を最小限に抑えながら進められる
親族内承継の長所は、従業員や既存の取引先への影響を最小限に抑えながら進められる点です。
親族は、社内事情や社風を理解している場合が多く、早い段階で受け入れられるでしょう。
また、後継者を探す手間がなくなるため、事業承継に費やす時間を十分に確保できます。
後継者の教育には、5〜10年はかかるため、現在の経営者が健康であるうちに進めるといいでしょう。
後継者には、企業の従業員として働いてもらいながら、経営や業務に必要な知識と技術を教える必要があります。
実際の現場に配属したり、経営者向けの研修に参加してもらう方法も1つの手です。
親族は必ずしも経営者としての適性があるわけではない
親族から後継者を選任したとしても、経営者としての適性に欠けている可能性があります。
従来では、親族に会社を承継する流れが一般的でした。
しかし、現代の多様な価値観が広がり、身内に縛られない働き方や生き方を選択する人が増えています。
経営者になると、業務上の責任が増えるため、親族にとっては重荷になるでしょう。
親族に事業承継を行う際は、後継者が引き継いだあとも安心できる会社にする必要があります。
赤字が続いたり、債務超過で立て直しが難しい状態では、円滑に事業承継を進められないので、廃業を選択せざるを得ません。
無理やり承継させると、後継者の意欲を落としてしまうため、事業継続が困難になるでしょう。
親族のなかに適任者がいない場合は、外部で後継者を探す必要があります。
親族内承継以外の事業承継を検討する
親族のなかから後継者が見つからない場合は、親族内承継以外の方法で事業承継を検討しましょう。
親族外承継では、社内の従業員や第三者、株式公開による承継が可能です。
事業承継の際には、経営者としての適性を見極めたうえで、後継者を選任しなければなりません。
親族外承継について詳しく解説します。
役員・従業員承継で社内事情に詳しい人を選任する
親族外承継には、社内事情に詳しい役員や従業員から後継者に選任する従業員承継があります。
実際に内部昇格による承継は、2021年度の就任経緯別の動向調査によると31.7%を占めているため、親族内承継に次いで多い傾向です。
従業員承継では、経営者に近い業務を行う役員や従業員を後継者に選ぶ場合が多いため、円滑な引き継ぎが期待できます。
しかし、中小企業のなかには個人経営の企業も少なくはありません。
後継者となる従業員がいない場合があるため、社外から候補を探す必要があります。
また、後継者を見つけたとしても、事業承継に必要な資質や能力が不足していると引き継ぎが難しいでしょう。
参照:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)
第三者承継で廃業を回避する
親族内承継や従業員承継が難しい場合は、企業の合併と買収を利用したM&Aによる第三者承継が可能です。
従来では、身近に後継者がいない場合に廃業を選択せざるを得ませんでした。
しかし、近年では、第三者承継によって廃業を回避する企業が増えています。
2021年度帝国データバンクの就任経緯の動向調査では、M&Aによる承継が17.4%を占めています。
第三者承継では、自社の株式を外部に譲渡する手続きが必要です。
後継者不足による事業承継が難しい企業にとっては最適な方法ですが、簡単には見つけられない一面があります。
また、後継者不足が続く企業の多くは、経営状況の悪化による倒産の可能性が高い傾向があります。
円滑に第三者承継を果たすためには、長期的な目線で企業価値を高めなければなりません。
不要なコストを排除したり、事業の基盤を強化する体制が求められます。
参照:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)
株式公開(IPO)で後継者候補を確保する
株式公開とは、自社の株を市場に公開して自由に売買できる状態を指します。
事業承継において株の評価額が高いのにもかかわらず、非上場企業の場合は、資金繰りに苦労する可能性があります。
株式公開は、同時に上場を意味するため、証券取引所が定める条件を満たした企業のみが対象です。
企業の上場を実現するには、内部統制の構築や会計監査などの準備に時間と費用がかかります。
さらに、株の買い手を後継者候補にするため、不特定多数の株主から選ばなければなりません。
株式公開を行っていない株は、売買ができずに、節税対策のために評価額を下げる選択が迫られます。
しかし、上場すると社会的な信頼度が高まり、銀行から融資を受けられる可能性も高まります。
倒産間際の企業の上場は難しいため、新たな事業の立ち上げに支障が少ない状態で、事業承継が可能です。
また、株式公開で売却した株は、現金に換えられるため、納税に必要な資金として確保できます。
廃業で経営の責任から解放する
親族内承継を始め、親族外承継でも後継者不足の解消に至らない場合は、廃業を選択せざるを得ません。
現役の経営者にとっては、なるべく廃業する選択肢を避けたいでしょう。
しかし、廃業は悪い面ばかりではなく、経営の責任から解放される長所があります。
経営状況の悪化により立て直しが難しいと判断した場合は、早期に廃業の準備をしなければなりません。
正式な廃業には、社内の従業員への説明や再就職先の選定、株の売却先を探す時間が必要です。
将来的に廃業して仕事がなくなる従業員や家族の生活を守るために、専門家の手を借りて手続きを進めると良いでしょう。
親族内承継の流れ
実際に親族内承継を行う際は、おもに以下の手順で手続きを進めます。
- 関係者から理解を得る
- 後継者の確定・指導を行う
- 株式や財産を分配する
- 個人保証に対応する
それぞれ順番に解説します。
関係者から事業承継で生じる問題について理解を得る
後継者が親族や外部の人間であっても、事業承継には税金や相続に関わる問題が生じます。
特に親族内承継の場合は、会社の財産を相続するため、家族への配慮が必要です。
後継者以外の家族が一部の財産を相続する場合は、十分な説明と理解を得なければ、トラブルに発展する可能性があります。
後継者に経営者としての知識と経験を身につけてもらう
親族から事業承継の理解を得たあとは、長期的な目線で後継者の教育が始まります。
最初から経営者に必要な資質を備えている人は、多くはありません。
実際の業務を経験しながら、経営者と同等の資質を身につけてもらうため、教育には5〜10年間の時間が必要です。
また、同業他社に勤務しながら自社の事業を客観的に見たり、他の経営者との交流で視野を広げる努力が求められます。
後継者には、商工会議所の会合や異業種の交流会への参加を促し、多様な価値観を知ってもらう機会を作ると良いでしょう。
株式や財産を関係者に分配する
親族内承継で生じる大きな問題は、事業用財産を含む相続です。
後継者として財産を引き継ぐにしても、自由に売却ができないため、十分に利益を得られない可能性があります。
また、事業とは無関係の相続人にとっては、内部事情を踏まえた理解に苦しむでしょう。
親族間の相続問題は、後継者に対して不満を抱く要因になります。
もし、複数の相続人で財産を分配すると、株式の分散による事業継続が難航する場合があります。
相続によるトラブルを回避するには、経営権を後継者に集中させるように手続きを行います。
他の相続人には、預貯金や生命保険から財産を分配すると良いでしょう。
親族内承継を検討している経営者は、早めに遺産分割を明記した公正証書遺言の作成や公平な相続などの準備を進めるべきです。
ただし、親族間で行うと失敗する危険性があるため、弁護士や税理士に相談しながら準備を進めましょう。
融資の個人保証の問題に対応する
銀行から融資を受ける際に、親族や経営者が個人で会社の融資保証を担います。
しかし、個人保証を残した状態で事業承継を行う場合は、後継者が嫌がる可能性があります。
経営状況が悪化したときは、最終的に個人保証を行う本人が自身の財産を切り崩して弁済しなければなりません。
また、個人保証している場合は、業績が良くない状況であっても簡単に事業を辞められない短所があります。
後継者にとっては新規事業の支障になるため、事業承継を行うまでに個人保証の問題を解消すると良いでしょう。
ただし、現経営者が融資を完済している場合は、事業承継に影響はありません。
親族内承継の承継方法は3つある
親族内承継の具体的な承継方法には、以下の3つがあります。
- 生前贈与で相続税を節税する
- 資金力のある後継者に株式譲渡を行う
- 経営者の遺言で相続を行う
一つずつ順番に解説します。
生前贈与で相続税を節税する
親族内承継では、現経営者が健在の場合に財産の生前贈与による承継が可能です。
後継者に事業用資産や株式を無償で譲渡できるため、課税対象となる財産を減らし、亡くなったあとの相続税を節税できます。
生前贈与では、贈与税が課税されますが、少しずつ贈与を行うと相続税の支払いを抑えられます。
ただし、株式の評価額が高くなると、高額の税金がかかる可能性があります。
納税の負担を軽減するためには、株式の評価額を下げてから生前贈与を行う方法がおすすめです。
また、生前贈与を実行すると撤回が不可能になるため、後継者の地位は守られます。
資金力のある後継者に株式譲渡を行う
親族内承継では、後継者が現経営者に株式譲渡の代金を支払う場合があります。
資金力のある後継者が株式を買い取ると、相続税と贈与税が不要になります。
また、他の相続人からの不満による遺留分請求を行われる心配はないため、トラブルを回避できるでしょう。
ただし、後継者が代金の支払いを担う必要があるため、資金の準備に至らない場合がほとんどです。
さらに株式の評価額を下げて売買を行うと、本来の評価額との差額は贈与として判断されます。
贈与税の負担を踏まえたうえで、売買を行うと良いでしょう。
経営者の遺言で相続を行う
現経営者の健康状態による退任で親族内承継を行う際は、遺言が必要となります。
遺言にもとづいて後継者と他の相続人への財産分配が行われるため、1人ひとりの取得分が定められます。
事業用資産を後継者以外の人物に相続すると、経営に影響を及ぼし、事業継続が難しくなるでしょう。
また、株主総会の決議において、後継者の意思決定が困難になる可能性があります。
遺言を行うときは、公正証書遺言がおすすめです。
ただし、必ずしも遺言通りに実行されるとは限らないため、遺言執行者を定めておくと良いでしょう。
遺言執行者は、誰にでも相続に関する手続きを任せられますが、信頼のおける弁護士を指定すると確実です。
親族内承継を円滑に進める方法
親族内承継を円滑に進めるためには、以下の方法を実行すると良いでしょう。
- 早期に後継者を見つける
- 後継者以外の親族への説明を行う
- 後継者が引き継ぎたくなる会社にする
それぞれ詳しく解説します。
早期に後継者を見つける
親族内承継の手続きには、時間がかかるため、早いうちに準備を始める必要があります。
現経営者の健康状態によっては、途中で断念せざるを得ない可能性があります。
また、後継者に選任した親族が離脱する場合も少なくはないため、他の承継方法を探す時間が必要です。
事業承継を思い立ったらすぐに行動すると、廃業に追い込まれずに事業継続が期待できます。
後継者以外の親族への説明を行う
親族内承継では、後継者以外の親族にも相続の権利があるため、十分な説明が求められます。
少しでも認識がずれると、不満を持つ相続人が現れる可能性があります。
事業承継や相続の流れを明確にして、財産の分配について納得してもらわなければなりません。
特に事業用資産は、経営に関する意思決定の際に重要や役割があるため、今後の事業継続を左右します。
親族内承継を成功させるためには、親族への説明を避けては通れません。
後継者が引き継ぎたくなる会社にする
業績の悪化による赤字が続いたり、莫大な負債を抱えている会社は、事業継続が困難になるでしょう。
しかし、事業承継を行うにしても、後継者に負債を譲渡しなければなりません。
後継者の多くは、負債を抱えている会社を引き継ぎたいと考えないため、廃業を選択する経営者もいます。
親族であっても、経営状況が悪化している会社の事業承継を断る場合があります。
後継者が引き継ぎたくなる会社にするためには、企業価値を上げなければなりません。
企業価値を上げる方法として、主力事業に力を入れたり、負債をなくす工夫が必要です。
親族以外の人物を選択肢に入れて事業継続を行う
本記事では、親族内承継の割合とメリット、デメリットについて解説しました。
近年では、親族外承継を選ぶ経営者が増えているため、親族内承継に縛られない選択ができます。
本記事で紹介した第三者承継や株式公開による承継では、親族以外の人物を後継者として立てられます。
ただし、いずれの方法も後継者を見つけるまでに時間がかかるため、早めに事業承継の準備を進めると良いでしょう。
他にも、事業承継で発生する税金の負担を減らすための節税対策や個人保証の問題への対処が必要です。
これから事業承継を検討している経営者は、後継者が負担にならない方法で事業継続の計画を立てましょう。